はじまりは、なんとなく足を向けただけやった
あてもなく歩いてたら、白くて四角い建物が見えてきた。
「COMMONS」とだけ書かれた看板。派手さはない。呼び込みもない。
けど、なんやろな。
そこに足を向ける人たちの背中を見て、ふと、入ってみたくなった。
その日は、小雨やった。
知らん国、知らん音、知らん香り
最初に目に入ったんは、ジンバブエの楽器やった。
「ムビラ」っていうんやって。金属の板を指で弾くと、
やさしい音が、胸の奥にまで届いてきた。
隣では、グレナダのスパイスが小瓶に詰められて並んでて、
思わず嗅いでみたら、
一瞬で空気が異国になった。
クロアチアの展示では、温度が変わる通路。
涼しい→ぬくもり→熱気──
身体がひとつの国の“季節”を歩いていくような、不思議な仕掛けやった。
これはただの展示やない、「人の声」や
ブルキナファソの手書きの展示文には、
誰かの丁寧な言葉がにじんでた。
ウクライナのパビリオンには、
張りつめた祈りのような空気が流れていた。
展示っていうより、誰かの想いがそこに立ってたんや。
「遠い国」やと思ってた。
でも違った。「知らんだけ」やったんや。
衣装を着て写真を撮るだけでも、
その土地の空気が、自分の輪郭にそっと重なっていく感じがした。
偶然の出会いが、次の扉を開ける
あのとき、自分は目的があったわけやない。
予約もなかったし、並ぶ覚悟もしてへんかった。
ただ、なんとなく足を向けただけや。
でも、
その「なんとなく」が、心を揺らす体験をくれた。
ふとした回り道で、
誰かの文化や願いに出会う。
あれが、ほんまの万博の入口やったんやと思う。
世界はニュースや地図で知るもんやなくて、
こうして“すれ違い”のような瞬間に、
ふいに触れるもんなんや。
……それでええ。今はそれで、ええんや。
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