高校1年の夏、ブルース・スプリングスティーンの「Badlands」を初めて聴いた。
Poor man wanna be rich, rich man wanna be king
And a king ain’t satisfied till he rules everything
貧乏人は金持ちになりたがり、金持ちは王様になりたがり、王様は全てを支配しないと満足できない。
16歳の自分には、この歌詞の意味が完全には理解できなかった。でも、音楽のリズムとメロディと共に、何かが胸に刺さった。人間の欲望の本質を、ブルースは3行で歌い切っていた。
40年後、中古車販売の社長
それから40年近く経ち、ある中古車販売会社の社長と話す機会があった。
「社員を1000人にするのが夢なんだ」
彼は熱っぽく語った。
「1000人にして、どうするんですか?」
私が尋ねると、彼は少し戸惑った様子で答えた。
「とにかく1000人が目標なんだ。大きくしたいんだ」
「大きくして、どうするんですか?」
さらに聞くと、彼は自分がガソリンスタンドで働いていた頃のしんどい話を始めた。一通り聞いたが、結局「大きくしてどうしたいのか」は見えてこなかった。社会貢献や雇用創出といった建前すら、なかった。
ただ、「大きくしたい」。それだけだった。
その瞬間、40年前のBadlandsの歌詞が、頭の中で鳴り響いた。
欲の上限を知る
1995年、私は起業した。そのとき、一つの軸を決めた。
月1人15万円の可処分所得説。
夫婦なら30万円、子供が1人いれば45万円、2人なら60万円。これ以上の可処分所得があると、変なお金の使い方をしてしまい、下品になる可能性がある。そう考えた。
おかげさまで、それ以上になることはなかった。
この「15万円」という数字は、絶対値ではない。人によっては30万円かもしれないし、100万円かもしれない。重要なのは、自分が我慢しない生活を送るために、どれだけあれば足りるのかという「欲の上限」を知ることだ。
軽自動車とキャンピングカー
私は車中泊をしている。軽自動車のバンで。
もちろん、キャンピングカーがあればもっと快適だろう。でも、軽自動車でも工夫次第で十分快適だし、むしろ工夫する楽しさがある。
軽自動車で満足する人と、キャンピングカーが必要な人では、必要な金額が違う。でも、その差は「誤差の範囲」だと思う。どちらも「足るを知る」の範囲内だ。
問題は、キャンピングカーを手に入れた後、もっと高級なキャンピングカーが欲しくなり、次にヨットが欲しくなり、その次にクルーザーが──と、際限なく欲しがり始めることだ。
それが、Badlandsの歌う「終わりなき階段」だ。
後悔はあるか?
30年経って、後悔はあるか?
全くない。
むしろ、幸せを感じるスキルが上がっている気がする。
Badlandsが歌う終わりなき階段を登る人生ではなく、足るを知り、今あるもので幸せを感じる人生を選んだ。
それが、私の「明日なき巡航」だ。
Badlandsのサビは、こう歌う。
I believe in the love that you gave me
I believe in the faith that could save me
I believe in the hope
欲望の階段を登り続ける虚しさを歌いながら、それでも信じるものがある。
高校1年で聴いたあの衝撃から40年。
ブルースは正しかった。そして、私は自分なりの答えを見つけた。
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